波乗りクリニック

一般内科・心療内科・在宅医療

「出力」の効用2

約 1 分

resize (1) 「出力」の効用の一つが「情報共有」です。

 科学の世界でも、大昔は何か発見しても、完全に確定するまで発表しない傾向がありました。しかし、近年は出来るだけ早く発表して情報共有し、世界中の人と協力して研究していく雰囲気が出来つつあります。誰かが何かを発見し、それを他の研究者が追試して確かめる。個人で出来ることには限りがありますので、生産的で良い流れだと思います。

 たとえば「壊血病」という病気がありますが、原因や治療法がわからなかった時代、多くの船乗りがこれで命を落としました。

 現代では、ビタミンC欠乏が原因とわかっています。人間の体はビタミンCを使ってコラーゲンを作り、切り傷や打撲などの修復を助けます。ビタミンCが欠乏すると出血が起こり、軟骨、靱帯、骨、歯肉や歯がだめになってしまいます。

 壊血病は数週間にわたる航海が出来るようになって以来、船乗り達を悩ましてきました。最も古い記録は1497年にバスコダガマが喜望峰を回ったときのものと言われています。それ以来18世紀に至るまで、200万人以上が壊血病で命を落としました。

 1795年、英国のギルバート・ブレーン医師の推奨で、英国海軍で水兵に対してレモン汁を配給することが決定し、壊血病の治療法が確立されました。

 実は、それよりさかのぼること約半世紀前、1747年に英国海軍のジェイムズ・リンド医師がきちんとした対照比較試験で、オレンジとレモンが壊血病に有効であることをすでに示していたのです。しかし、リンドは内気な性格でそれを発表したり宣伝せず、自前で解決しようとしました。ジュースの貯蔵にこだわり、濃縮ジュースを作ったまでは良かったものの、その中からは有効なビタミンCが失われていたため効果を発揮しませんでした。こうしてフルーツジュースで壊血病を予防するアイディアは、その後半世紀にわたってお蔵入りとなり、その50年間に大勢の水夫が命を落としました。
 もしもジェイムズ・リンドが21世紀の医師であれば、仮説をすぐに発表し、世界中の人がそれを試してみたことでしょう。

 現代は情報化社会になり、誰でも自由に発信できるようになりつつあります。ときどき眉唾物の医学情報が流れていますが、その中にも砂金のように本物があるかもしれません。

 仮説は個人の人格とは別問題です。批判を恐れず早めに発表し、情報共有した上で吟味されるのが望ましいと思います。