波乗りクリニック

一般内科・心療内科・在宅医療

「野生の少年」

約 1 分

野生の少年02「野生の少年」 1969年
 監督・脚本・出演(イタール医師役):
 フランソワ・トリュフォー

 子供の頃に「オオカミ少年」の話を聞いたことがあります。「オオカミが来た」と嘘をついて誰からも信用されなくなる少年、の話ではありません。それはイソップです。こちらはインドで見つかった野生児の話だったんですね。
 何となく覚えているのが、「人間でなくオオカミに育てられた子供がいて、人の手で育てられるようになってから弱って死んでしまった」との話でした。実はこれは孤児院の寄付集めのための、ねつ造だったとの見方が一般的になっているようです。まあそうですね、冷静に考えたらオオカミに人間の赤ちゃんは育てられないでしょう。
 (そういえば手塚治虫のブラックジャックに、これをモチーフにしたと思われるエピソードもありましたが)

 さて今回の「野生の少年」はインドではなく、フランスの実話に基づいた話です。オオカミとは何の関係もなく、200年ほど前にフランスのアヴェロンの森で発見された、野獣のような少年の物語です。12才くらいの話の出来ない少年が森で見つかり、パリの聾唖者研究所で診察の結果、赤ん坊の時に両親に喉を切られ、死んだと思って森に捨てられた、ということになりました。少年は人間のようには扱われず、見世物にされるのですが、イタール博士はこれに反対し、少年をヴィクトールと名付け、自宅に引き取って教育をはじめたのでした。その後は少しずつ言葉や規則を覚え、人間らしさを取り戻していきます。(ただ、この場合の人間らしさは、私たちの視点によるものです)
 最終的には同年代の子供と同じようには発達できなくなり、5年ほどでイタール医師は教育をあきらめてしまいますが、一緒に衣食住の面倒を見ていたゲラン夫人はその後も面倒を見続けたようです。

 この映画はほとんど誇張がなく、イタール博士の論文『アヴェロンの野生児』にそって淡々と描かれているため、映画としてのおもしろみには欠けます。記録映画の様に学習用としてみる分にはとても良いできだと思います。

 以前に児童精神科医の話の中でこのDVDが紹介されており、発達障害(特に自閉症スペクトラム)の、典型的症状が表現されているとされていたので、興味を持って観てみました。育児放棄されて教育者がいなくなったために特異な行動をとるようになったのではなく、もともと発達障害のために育てにくかったので、親に捨てられたのではないか、との見解でした。
(今と違って200年前の話ですからね)

 トリュフォー監督は発達障害を意図した作ったわけではなく、愛情と教育で改善される子供を表現したかったのだと思います。

 なにぶん古い映画なので、症例報告として観る以外には少し苦痛かもしれません。また、逆に今の時代ならばこんな映画は(差別的すぎて)作りづらいので、ある意味貴重な存在です。