波乗りクリニック

一般内科・心療内科・在宅医療

マスクは諸刃の剣

約 1 分

 医療用マスクは諸刃の剣(もろはのつるぎ)です。
 理屈をわかって正しく使えば大変有用ですが、使い方を間違えると危険です。

 インフルエンザを例にとって説明しましょう。

 インフルエンザはウイルスが原因です。ウイルスは自力で繁殖したり、移動したりできません。この場合、主に動物(人間)の細胞内に無断侵入し、その細胞内の材料を勝手に使って自分のクローンを作って増殖します。移動も人頼みで、動物にただ乗りして移動します。
 しかし、結果的には動物や人がウイルスを運んで自分の仲間に移しますから、ある意味で流行を拡大する共犯者とも言えます。

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 さて、最終的にインフルエンザウイルスが目指しているのは人間の咽頭です。ここに何とか入り込み、人間の細胞内で増殖することが彼らの目的です。

 メインゲートは「鼻の穴」です。8割方ここから侵入します。また、目と鼻をつなぐ鼻涙管を伝って侵入することもありますので、眼の粘膜も狙われています。ですから目をこすってはいけません。時に口から侵入することもあります。

 上から順に「目」「鼻」「口」で、この3カ所さえ鉄壁にブロックすれば、まずインフルエンザになることはありません。が、それが難しいのです。

 インフルエンザが、人から人に感染する場合を考えます。感染している人がくしゃみをすると鼻水や唾液が約2メートルほど飛びます。それにウイルスは乗って周囲に飛び出します。

 その時、2メートル以内に他人の顔があり、その人が瞬きせずに目を開けているか、鼻や口から息を吸い込んでいる瞬間であれば、その瞬間にウイルスは入り込みます。

 サッカーにたとえると、ゴール前のフリーキックのようなものです。これではひとたまりもありません。たまさかゴールキーパーの飛ぶ位置が良くて、運良くセーブできる事もありますが、非常にまれですね。

 ウイルス感染も同様で、くしゃみの直撃を食らったときに、運良く鼻水を外に出しているか、つばを出しているかしていれば、ウイルスは外に洗い流され、感染が成立しないかもしれません。が、一般的にはウイルスがそれをかいくぐって奥に進み、上咽頭の粘膜にたどり着いて感染は成立します。また、移動途中の鼻の粘膜から横入りして感染することも否定は出来ません。

 くしゃみの直撃を食らった瞬間、2メートル以内の人がマスクを正しく装着していれば、ウイルスの侵入を遅らせることが出来ます。あくまで遅らせるのです。

 ウイルス自体は非常に小さく、マスクの編み目はやすやすと通り抜けます。しかし、彼らは鼻汁や唾液といった乗り物に乗ってしか移動は出来ません。一般的にはこの乗り物に当たる鼻汁や唾液がすぐにはマスクを通過できないため、マスクは有効になるのです。
 しかし、その状況ではマスクの外面には(目に見えませんが)、ウイルスが付着しています。この状態でマスクを触ると、ウイルスは手に付着します。そしてその手で目をこすったり、鼻を触ったりすると、その時にウイルスの侵入を許してしまうのです。サッカーでフォワードが一度トラップしてシュートを決める感じです。

マスク06 マスクはエアコンのフィルターのようなものです。その表面には汚れ(ウイルスや細菌)がいっぱいいると想像してください。マスクを付けるとどうしてもそれが気になったり、かゆくなったりして、ついついマスクを触ってしまう気持ちはよくわかります。なにか考え事をしていたり、事務仕事をしているときなどはなおさらです。知らないうちに手がウイルスまみれになっているのです。

 また、逆もあります。感染者の分泌した鼻汁がドアノブに付着していたとしましょう。当然ウイルスは目に見えませんから、次の人の手に乗り移ります。この手でマスクを装着すると、マスクにウイルスが移ります。そしてそのマスクはあなたの鼻と口をふさぐのです。
 サッカーにたとえると「オウンゴール」でしょうか。

 マスクで防御していても、手から顔に移動したウイルスが、マスクのすぐ縁に付着していることがあります。この状態でマスクをいじり回し、上下させ通称「あごマスク」の状態を繰り返せば、いずれウイルスはマスクの内側に移動し、のどの奥に入っていきます。ですから「あごマスクは禁止」なのです。

 マスクそのものについては、保温・保湿効果、感染対策を意識する効果、マナー上の効果(他者を気遣う優しさ)はあります。しかし、ウイルスはマスクの編み目よりはるかに小さいので、やすやすと通り抜け、感染が成立します。空気感染する結核や水疱瘡には全く無力です(N95規格は別格でしょうが、30分くらいしか連続使用できません)。
 インフルエンザ患者が、マスクを押さえてくしゃみをすると、真横にウイルスが拡散します。患者の手はウイルスまみれです。

マスクを使う際の注意をまとめると、

  1. マスクをする前にしつこく手洗いする。
  2. マスク装着時、内側や中央部分には手を触れない。ひもを持って装着する(常に「手はウイルスに汚染されている」と考えていた方が安全)。
  3. 一度装着したら、外して捨てるまで二度と触らない。ずらさない。(逆に言うと、うっかり触ってしまったマスクは、即座に捨てて新しいものに交換した方が良い)
  4. 鼻だしマスク(鼻が出ている状態)では、マスクの意味がない。(さらに、「あごマスク」は最悪で、感染のリスクを高める)
  5. 外したマスクはウイルスに汚染されているものとして処理する。

といったところでしょうか。

 よく見かけるのは、サイズの合わないマスクをしている子供、マスクが気になっていじり回している子供です。気がつくと、うちの子もやっていますが、理解力のない子供に説明しても意味がないので、間接的に対応しています。「マスクをするな」とも言えず、対応に苦慮します。いい方法はないもんでしょうか?
 じつは私も、ついついマスクを触ってしまう癖があり、気づくたびにマスクを交換する羽目になります。意識することで、最近あまり顔を触らなくなりましたが、それでも机に向かって仕事をしているときは、頬杖をついたりしています。デスクワークの人にインフルエンザやかぜひきが多いのは、そのせいかもしれません。

 ちょっと間食するときに、「あごマスク」で食べている人がいますが、これも感染リスクを高めています。間食するときに外したマスクはすぐに捨てて、また新しいものに交換する必要があります。また、人と話をするときにマスクをしていると失礼に当たるので、ちょっとマスクを手で持ち上げている人もよく見かけます。要注意です。
 外したマスクを持ち歩いたり、テーブルに置いたりしている人もいますが、これはほとんどバイオテロのレベルです。

 こうして考えると、きちんとマスクを使う場合、一日の使用枚数はかなりの数に上ります。私も一日で数十枚使ったことがありますが、それでも足りないことがあります。
 これはちょっとやり過ぎでしょうが、とにかく枚数を抑えるためには、「顔を触らないこと」「間食しないこと」です。(ダイエットにもなって一石二鳥ですね)

 マスクは上手に使えば有用ですが、正しく使っている人は少ないように思います。私も気をつけようと思います。