波乗りクリニック

一般内科・心療内科・在宅医療

ユマニチュードの“プチ”実践

約 1 分
ネオパン1600
ネオパン1600

 今、開業準備の傍らで「かかりつけ医」としての「知識」「技能」「態度」をブラッシュアップしようと心がけています。わかっているようで、わかっていないもの。出来るようで出来ていないもの。自分の医療面接を客観的に見る練習etcです。その一つが認知症患者への対応です。

 高齢患者で意思疎通が困難な人の場合、大抵は認知症が関与していますので、コミュニケーションがとりづらい場合は、「まあ、こんなもんか」と半ばあきらめの境地になってしまいます。しかし、最近になってユマニチュードという概念に触れ、それを元に自分なりの試行錯誤をするようになりました。

 ユマニチュードはフランス発の言葉で、綴ると「Humanitude」、すなわち「人として接する」という意味です。語感としては精神論のようですが、実際はとても実践的な技術に基づいたもので、「見つめること」「話しかけること」「ふれること」「立つこと」の4つの柱からなり立っています。主に認知症患者への対応に用いられる様ですが、ほかの場面でも応用が利きそうです。

 先日、これを“プチ”実践する機会がありました。(ちょっとフランス風ですね)

 発熱で往診依頼がありました。普段は同僚の医師が定期的に訪問しているのですが、その日は遠方に訪問中とのことで急遽私が行きました。
 グループホームの居室に入るとおばあちゃんが寝ています。表情に乏しく、頭部は後屈したままで、いかにも誤嚥しそうな体位です。いつも通りのやり方で、ベッドサイドに膝をつき「どうかありますか」と水平方向から話しかけます。これは患者を見下ろさないようにする一般的なやり方です。
 しかし、その方は目をつぶったままで反応があまりありません。体を触ると熱く、熱を測ると38℃もあります。いつものように声かけしながら聴診器で胸の音を聞きますが、深呼吸等の協力が得られず、肺の雑音などは、はっきり聞き取れません。
 そこで私は聴診器をいったんはずし、患者に覆い被さるような姿勢で、顔をのぞき込むようにしました。目算で約20cm、少し老眼が入ってきた私の目では、もはや患者の顔にピントが合わない距離です。端から見ると、非常に怪しい距離です。(まあ、相手が高齢患者なので誤解はされないでしょうが…若い女性だと問題になりそうな距離です)
 「こんにちは」ゆっくり話しかけ、ピントが合わないなりにアイコンタクトを心がけます。するとどうでしょうか。先ほどは反応がなかったのに、今度はゆっくり目を開けて、「こんにちは」と返事を返してくれたのです。すかさず「痛いところはないですか?」「息苦しくないですか?」等々の質問を繰り出します。そうすると、ゆっくりではありますが返事はかえってくるのです。笑顔も見せてくれました。

 第一印象とは大違いで、結構しっかり受け答えできる人だとわかりました。頭部後屈姿勢、むせや咳もあり、誤嚥ではないかとのことで治療を開始することにしたのですが、薬の説明その他も笑顔で「はい」「はい」と頷きながら聞いてくれます。どこまで理解してくれているかは不明ですが、少なくとも治療・介護に抵抗することはなさそうでした。

 今回、まずは「見つめること」「話しかけること」を意識してやってみました。ほんの些細なことですが、ユマニチュードの発想が少しわかった気がします。残りの「触れること」「立つこと」にも、機会があればチャレンジして行きたいと考えています。

 ユマニチュードの難点は、まだ教科書があまりないことです。日本語のきちんとした教科書が出れば、全国的に広がる技術ではないかと思います。
 (たぶん最初に出た教科書は売れるでしょう)