波乗りクリニック

一般内科・心療内科・在宅医療

3月は自殺対策強化月間

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ビーチ_R 3月は、就職や転勤、転居など、生活環境が大きく変動する時期で、自殺者数が増加する傾向があります。
 自殺は本人だけでなく、周囲の人に大きな影響を及ぼします。

 昨年10月、日経新聞の「私の履歴書」という連載にノーベル賞受賞者の利根川進氏が寄稿していました。幼年期から学生時代、研究者としての輝かしい人生を振り返る内容でした。私は以前の新聞記事で、同氏の次男が若くして不慮の死を遂げたことを知っていましたので、話題がそのことに触れるかどうか興味を持って毎日読んでいました。トータル30回の連載の29回目、つらかったと思いますが、同氏がそのことを書いていました。

 次男の方は才能豊かな人物だったようで、物理、数学、歴史をはじめとする学業一切はもちろん、チェロとピアノを演奏し、ピアノのコンペティションで勝ってカーネギーホールで演奏するほど、音楽のオ能にも恵まれていたとのこと。音楽と数学がセットになった人は本物の天才だと思います。しかし、マサチューセッツ工科大学(MIT)1年生、18才の時に夭逝してしまいました。

 「人から見れば羨むような生活を送っていても、他人にはわからない苦労がある」と考えてしまいがちです。私も最初にその報道を聞いたとき、「ノーベル賞受賞者の息子でMITの学生だから、周りからねたまれて、いじめられたのでは?」と思っていました。しかし、この人の場合はあまりそれが伝わってこないのです。利根川氏の文面からは本当に原因がわからなくて家族も困っていることが感じられます。私の知っている情報だけからは、追い詰められて自殺したと言うより、すべてに達観してこの世から卒業していったように感じてしまいます。こうなるともう誰にも、おそらく亡くなった本人にも理由はわからないように思います。

 利根川氏は最後にこう綴っています。「実は、私は余りにも次から次へと幸運に恵まれてきましたので、以前から『大丈夫かな』という気がしていました。私は宗教を持たない人間ですが、やはり天は禍福を調整したのではないかと。もしそうなら、ノーベル賞その他の幸運はいらないから、(息子さんの名前)を返してほしいと心から思います。深い悲しみに暮れる日々ですが、本当に短い時間ではありましたが、あれほど魅力的な若者と過ごせたことを、感謝しなくてはならないのかと思うこともあります」

 自殺対策は本当に難しく、行政も医療もまだ手探りの状態です。自殺の兆候を見抜くことはベテランの精神分析医でも難しく、むしろ患者に死なれた医師の方が参ってしまうことも多々あります。また、まじめな医師ほどその傾向があります。また家族が受けるダメージは計り知れない物があります。

 周りの人のケアを含めて、他人事と思わずに考える必要がある問題ですね。